『スイカ割りの家』

その家にはいつだって人がいた。「いってくるよ」女にそう言って出かけてクワガタをとって「ただいま」と戻ってきた時もまた別の女がいた。安定はしてないが、必ず人がいた。川縁に建っている家は、帰った時玄関を開けると必ず夕日が目に入る。一瞬眩しさにたじろいでその後、土間から部屋を眺めれば、必ず数人の人がこちらを見て「おかえりなさい」と笑顔を見せていた。真っ赤に染まったその家は温度が常に高く。それはそんなに広くないこの家にぎうと詰め込んだ人数にも関係していたのかもしれない。部屋に向かう廊下にも常に誰かがいる。自分だけの部屋ではない部屋に荷物を置くと、取ってきたクワガタも自分だけのもので無くなる。自分より小さな手に奪い取られ、その手からもまた、奪い取られながら、この部屋を離れ、沢山の声のする部屋で大きな笑い声に昇華していく。外では自分だけのものであったものがこの家で誰のものでも無くなる切なさは、歓声で自分の微笑みに代わっていた。この家から出かけて、いつも何かを持ち帰った。持ち帰る前までは自分のものと感じているこのものも自分のものでないことを知っていた。この家はそれだけではない。夕時になれば、必ず温かな食事がたくさん用意された。私は一度もこの家で食事を作ったことがなかった。毎日みんなが集まる広い部屋のテーブルの上には数え切れないほどのいろんな種類の食べ物か並んだ。と、いってもすべての料理に箸を付けることは出来ない。少しでも躊躇していれば、二、三品しか食べることができず、戦いなのだ。食事をするということは。その後、食器を洗い部屋に戻れば、戦場であったはずのテーブルは片され、ほんのひと時の遊園が始まる。私はこの時間が好きだ。いくつかの班に分かれてぼろぼろのトランプでやる大富豪。年齢も関係なく真剣に競い合うこの現場はこの家の階級を決める重要な勝負の場なのだ。私は上位の常連であり、獲得者としての誇りを持っていた。遠くから勝負を眺める目も真剣だし、新たに参加してくるものがいればまず、上位者は席を外し、その推移を見守る。その時は横でやっているブロックスや将棋、など階級の下がる遊戯に身を投じるのも良いが、ひとたび歓声が上がれば、部屋の外にいる人の目さえ部屋の中心で行われる大富豪に注がれるのであるから、注意は必要だ。新たな獲得者の登場を見逃してはならない。事故が起こることもある。使い古したトランプの枚数が足らない。これは大富豪の前に行われる七並べで判明する出来事であるが、波が起こる。落胆の波とともに、すがる波。そして、緊張の波。突然獲得者が動き出すのである。メインイベントが開催されない代わりに、数名の者たちが家の中を物色を始める。怯える小さな者たち。私も獲得者であるから、俊敏な動きを求められる。コツは怯えるものを探すこと。この瞬間この家で何も持ってないものは怯えない。怯えが大きなものほど収穫は大きいのだ。瞬間でそのものを見つける。それが上位者の資格であり、誇りだ。後ろに隠したその手から、代わりになるものを奪い取る。小さなものたちも本当は知っている。手にしているものが誰のものでもないことを、ただ奪われた瞬間は悲しい。声は上げず歯を食いしばって泣くもの。大きな声で駄々をこねて周りのものに押さえつけられるもの。この時に同情してはいけない。冷静に冷ややかに実行するのだ。次の日には代わりのトランプを持ち帰るために。その時私はレアなカードを奪い取った。隣のクラスのあっちゃんが欲しがってあるのを知っていたし、あっちゃんが先月自慢していた反対側が透けて見える不思議な透明トランプの存在を確認していたからだ。あれを持ち帰れば、この家の歓声の大きさは計り知れない。考えただけで頬かにやける。すまない。幼子よ。それを持っていると友達の中のヒイラリティが上がるのは重々分かっている。すまない。幼子よ。ただ、他の獲得者がそれを持ち込んでから、一週間。もう十分堪能しただろう?結果そのカードだけではゲームはできないし、ヒイラリティを上げるための期間は与えた。その上、そのレアなカードの有効期限もあるのでな。価値が下がらないうちに活用させて貰う。冷ややかな目の裏でそんな会話をしながら奪い取る。この家の約束事なので誰も文句はない。ただ恨めしい目が残るだけだ。その時に隣でホッとしている人も見逃さない。今回は安堵して置くのだよ。あなたの大切なものを次回は奪うかも知れない。大小関わらず、私はこの家に貢献していた。あるもので生み出すことは容易い。ないものを奪ってくることは難しい。


川縁のこの家が壊された。


私はある程度の大きさになっていたので一人で家を借りた。なにも難しくはなかった。家はマンションで一人で住むには大きすぎた。2DKだけど、私には広すぎた。家とは何か?私は分からず獲得者を続けた。家に財は溜まりもう十分だ。このまま続ければ、今の生活ならば一生生きていけるものを用意するのも容易い。ただ、何もない。この家は冷たい。私も冷たい。温度のない世界をどう過ごしていいのかわからない。

あなたのものわたしのものと分ける概念がわからない。家のなかとそとが分かれているだけだ。





誰か助けて

20170610 ∞